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天上の楽器とも称されるハープの調べは、気高く繊細で、高貴な印象を人々に与えます。優美なフォルムから奏でられる、夢見心地の世界に誘う音色。しかしそれは、ハープが持つ様々な魅力の1つではあっても、全てではないのです。オーケストラなどの合奏において、ハープは主に楽曲に色彩感をもたらす役割を果たしてきました。華麗なるグリッサンドや、透明感のあるアルペジオはハープの真骨頂といえます。それでは、ハープがソロ楽器としてフィーチャーされるとどうでしょう。そこにはノーブルなだけではない、別の魅力を持った姿が見えてきます。
『オーセンティックハープ』は、ハープが本質的に持つ様々な魅力をいっぱいに詰め込んだアルバムです。一般にまだまだ知られていないハープの底知れぬ奥深さ、表現の可能性を正統派ハーピスト・近石瑠璃が豊かに奏でました。天上の光のようなたおやかさ、絢爛たる輝き。清水のきらめきのような透明感。一転して嵐のような荒々しさ、ダイナミックさ、ある時は妖精のステップのような軽快さ、そして素朴さ。実に様々なハープの表情が、この1枚に収められています。たった1台のハープが、あらゆる世界に誘ってくれることを感じていただける、まさにオーセンティック(=本質的)なアルバムです。
『オーセンティックハープ』に収録されている楽曲は、全てハーピストである作曲家、編曲家の手による作品です。ハープを弾きこなすことのできる作曲家というのは、そうそう多いものではありません。一般的に作曲家はピアノを使って作曲することが多く、ハープもピアノも2段譜を使っているという共通点もあり、ピアノ的な書法で楽譜が書かれることがままあります。当然ハープとピアノはその特徴、得手不得手が異なりますから、ハーピストではない作曲家がハープという楽器の能力を余すところなく引き出すのはとても難しいのです。
『オーセンティックハープ』の作曲家を眺めてみると、一般にはあまり馴染みのない名前が並んでいますが、彼らこそがハープの本質を知り尽くしたマエストロたちです。ハーピスト・作曲家のみならずハープ製造までも手がけたクルムホルツ。ハープの機能を最大限に引き出し、新たな奏法までも開拓したサルツェード。自らも名ハーピストであり、後進の育成にも多大な尽力をしたハッセルマンやルニエなど、ハープの真髄ともいえる彼らの珠玉の楽曲が『オーセンティックハープ』に収められています。
アルバム『オーセンティックハープ』は、ハーピスト・近石瑠璃の情熱なしには決して実現しませんでした。7才でハープに触れ、10才にして早くもプロを目指したという近石瑠璃は、ジュニア時代から数々のコンクールに入賞、東京芸大でもソリストとして頭角を現し、イタリア国立音楽院を首席で卒業、国内外で数々の演奏活動と、若くして輝かしいキャリアを積んできました。彼女のこれまでの足跡は類い希な才能だけによるものではなく、幼い頃から変わらないハープへの溢れるような愛情、音楽と向き合う真摯で誠実な姿勢、理想のハープ音楽を求めて弛まず努力しつづける歩みそのものです。
繊細できらびやかなタッチから広がる近石瑠璃のハープは、巨匠たちが書き上げた緻密な作品にみずみずしい生命感、躍動感を与えています。ピアニシモの細やかなフレーズは滴ってはじける雫のような透明さがあり、ダイナミズムが求められる場面では勢いにまかせるのではなく、1つひとつの音の粒に輝きを与えながらスケール感を表現しています。それは繊細な彫刻を積み上げた巨大なカテドラルのように、豊かな感性と確かな技術、音楽への愛の結晶であるのです。
このアルバムを実現するにあたり、全曲ハーピストによる作品を収録するというコンセプトを打ち立てたのは近石瑠璃自身です。彼女は選曲、演奏表現、曲順、音響の設定(ハーピストがあなたの部屋にやってきてあなたのためだけに弾いているという設定で、深いリバーブ感をあえて付け足さないなど)やジャケットデザインの方向性まで、コンセプトを周りのスタッフと共に練り上げていきました。おっとりとした語り口で周囲を和ませつつも、『オーセンティックハープ』というアルバムが「本質」を冠するにふさわしいアルバムであるために、彼女は持てる情熱の全てを注ぎました。